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盛況に終わったプロダクトマネージャーカンファレンス2017。初日のトップバッターを務めたのは、Microsoftで長らくPMとしてWindows8の開発などに携わり、現在は楽天トラベルでPMを務める齊藤満氏。日本にもようやく根付きつつあるPMという役割において、どんな働き方が求められているのかをその長いPM経験を元に語った。

本記事ではそのセッションより、3つの観点から考えるPMの働き方についてのレポートをお送りする。

楽天株式会社
トラベルサービス開発・運用部 トラベルプロダクトマネジメント課
Senior Manager
齊藤 満

PMに求められる3つの役割

去年のプロダクトマネージャーカンファレンスでは「世界を目指せ」という話をさせていただきました。今年はPMがどういったスタイルで仕事に取り組んでいけばいいかについて、3つの観点からお話をさせていただきたいと思います。

1.Generalize
2.Communication skill
3.Decision making

もしPMが一つ一つのissueを解いたり、誰かの真似をしているだけなら、PMはいらないと思います。

今自分たちから見えている問題、つまり他の会社から遅れているとか、世の中の人の役に立てていない状況では、Generalizeを考えられる存在だからこそ、PMには価値があると私は思っています。

具体的に言うと、開発を始めるとき、ランダムなGoal、ランダムなissueは宇宙の数ほどあると思います。だからこそ毎日みなさんが悩まれているわけです。

それらをまとめて一つのクリアなゴールにして、それぞれのRequirementにまとめること。PMジュニアなら、ここまでできていれば素晴らしい仕事ぶりだと思います。ただそれで充分ではありません。

もちろん、どこまでGeneralizeすればいいかといったバランスの問題はありますが、これらを一歩進めて、極力少ないRequirementで、コアな問題やゴールに対して「この開発を行えば私たちのプロダクトは世の中の人に役に立つんだ」とまとめきれる存在であること。これがPMの一番重要な仕事であり、一番の腕の見せどころだと思います。

アジャイル開発でイノベーションを止めてしまわないようにするには?

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開発スタイルにはアジャイルやウォーターフォールなどいろいろありますが、今回はアジャイルについて話しましょう。何をもってアジャイルと呼ぶかは、まだ各人がバラバラに捉えているかと思いますが、あくまで傾向としての話をします。

アジャイル開発を一気に導入してしまった組織は、やらなければいけないことではなく、目の前の問題やすぐにできること、誰かが文句を言ってきたといった大きな声の問題だけを相手にしてしまい、イノベーションが止まってしまう問題があると感じています。

問題が全部でどれくらいあり、そのすべてを考えた上でどういったプロダクトをつくればいいのか、どれをやるべきなのかについて話ができる人たちが集まっていれば、デベロッパーと話をしてすぐに開発できるスタイルのアジャイルは成り立つと考えています。

2年間、ディベロッパーやQAと「これやろう」と決めたものをすぐに開発してきた、ある組織がありました。2年前から比べるとUIのデザインはきれいになったし、ファンクションも小さなものがついた。でも「あなたのプロダクトは何か変わりましたか?」と聞くと、何も変わっていない。Talentがそろっていなければ何も変わらない。ただ世の中の流れを追ってただけだ。そんな結果になりがちだと思います。

例えば国やエリアによって変えていきたいとしても、西の方ではこうで東の方ではこうといったように、国ごとにカルチャーが違います。この国はこういう宗教が多いので…といったissueを全部見ていったらキリがありません。

カルチャーやサービスごとにまとめたり、データ解析などを行ってできるだけGeneralizeすることが大切です。もちろん開発には工数が必要なので、ベストなバランスでつくっていくことができれば、いいPMと呼ばれると思います。これが私がいつも考えていることです。

USB開発に見るGeneralizeの価値

少し昔の話になりますが、私のお話をしましょう。もう15、6年前になりますが、私がUSBの開発をしたときです。当時はそれぞれが全くバラバラのバスとプロトコル使っていましたが、私は極力少ないプロトコルですべてのExperienceをサポートできる状態をつくれないか考えていました。

その結果、3つのプロトコルを組み合わせることで全てのコミュニケーションができるという状態をつくることができました。いろんなものに使われている、たった3種類のProtocol。USBはそこまでGeneralizeできたことによって、広く長く使われるようになったのだと思います。

そして、Wi-Fiの上に乗るなど、いろいろなことが起きたときも、未だにUSBの上の部分の考え方が使われています。ここまでGeneralizeできると、その汎用性から未来も含めたいろんなサービスで使えるようになるんだと思います。

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私はいま「楽天トラベル」というTravel industryにいますが、ホテル・飛行機・バス・レンタカーといった、サービスそれぞれが全く違うプロトコルを使っている状態です。またホテルの中でもビッグチェーンは複数のプロトコルを持っており、それも全く別々という状態です。私たちが抽象化してそれぞれにお話をすることでサービスを行うことができ、それはそれでValue Propositionとしてあります。

ですが、PM個人としては「すべてのサービスが一つのプロトコルになって、誰もがその上のアプリケーションをつくれて、サービス提供も行える」、それくらいGeneralizeができていればいいよねと考え、いま話し始めているところです。大きいアライアンスを組んで、一つのプロトコルでまとめていけたらいいよねと。Generalizeとはそういうことです。

自分たちのissueをどれだけGeneralizeし、全体から一気に解くことを考えられるかが、PMの価値。そういったことを考えられるスペシャリストは、このような役割をずっと与えられていないと育たたないと私は思います。そういう役割がいるからこそPMが世の中の役に立つのではないかと思っています。

「コミュニケーション恐怖症」になりがちなPMの仕事

さて、次はコミュニケーションのお話をしましょう。コミュニケーションが重要だということはみんなわかっていますよね。

とはいえ、やっぱり、しんどい。

誤解を恐れずに言うならば、PMの仕事の95%はDisgusting(最悪)です。結構イヤなことが多いんです。それは、コミュニケーションの中心になって大きな責任を持つから。

例えば、Managerが言ってたからその通りにやっていたら、いつの間にかManagerが違うことをやってたりすることもある。ステークホルダーが2〜3社あって、それぞれのステークホルダーが全く逆のことを言っていたりすることもある。日本のCustomerはフィードバックを文字で書いてくれて素晴らしいねということも少ない。書いてくれたと思ったら文句…じゃないフィードバック(笑)だったり。

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チームメイトも「自分はこう考えている」と言うし、目的と全然違う方向に進んでいこうとする。PMはそういった有象無象の中心になるので、結構しんどい。

MicrosoftでWindowsを担当してきた経験から言うと、「ユーザー数を増やしたい」「サービスを大きくしたい」は当たり前の心理ですが、ユーザーが増えれば増えるほど、孤独で孤独で、『Feel Alone』。世界中が敵に回っているという感覚以外の何物でもなくなります。

The more users on your product
The more you feel you are alone

コミュニケーション恐怖症に半分ほど陥るんです。陥る状況としては、耳を塞ぐようになる。自分のFeatureなのに何も考えずにそのままつくる。近くの人の話しか聞かなくなる。「とりあえずこれね、未来のことは考えるのをやめましょう」と言って逃げてしまう。日本の方が責任感が強い人が多いと感じます。

アサインされたなら、そのプロダクトはあなたのもの

Windows時代の話をしましょう。ある日、身長が2m近くあって帽子をかぶった、黒人でもないアジア人でもない英語っぽい何かを喋っている人を、セールスの偉い人が連れてきました。

アクセントが強すぎて何を言っているかわからないけれど、何か怒られているような状況で、「あれもこれも問題だ」と言っているように見えました。何を言っているのかわからないので、セールスの方々は解析するのに3日かかりました。

「お前、何か思い当たることはないのか?彼と話をしてこい。お前がなんとか解いてこい」と言われ、私は3日間怒られ続けました。でも私は、なんて言っているかわからないから解けないとずっと思っていたんです。

3日経ってわかったのは、彼は「Windowsは右から左まで全てサポートしていて素晴らしい」と褒めていたということです。そして、その人はサウジアラビアにあるPCメーカーのPresidentだったんですね。だから話を聞かなきゃいけない方でした。

そう、じつは褒められていたんです。ただ私は、結果がわかったときに、これまでの人生で一番「なんじゃこれ、何じゃこの仕事…!」と思いました。そんな経験があります。

今でもフィードバックをたくさんいただいていて、いろんな方からいろんなコメントをいただきます。でも、それでもたぶん、こうなんです。

Feedback is always great!
People use your products!

いろんな方々に使われているんだと思える。身に染み込ませることができる。そう思えるならコミュニケーションはうまくいきます。私はイラッとしたら一歩離れて、こう自分自身に言い聞かせていたりします。

It’s your product!
Make a decision by yourself!

アサインされたならば、そのプロダクトはあなたのものですよと、今一度噛み締めておいたほうが良いと思います。すべてのProduct の決断はPMがすべきです。

ただ、いろんな力関係やビジネス関係があるので、PMのわがままで決めるのとは話が違います。

いろんな方のフィードバックを聞いてその上でPriorityを決め、「私たちがつくるのはこのプロダクトだ」と、好きに決めるのではなく自分が納得した上で決める。それが大切です。

「みんなが良いと言っているから」で決めると、きっと後悔する

もう一つ小さい話ですが、UX PMには参考になるかもしれないと思うので、その話をしましょう。Windows7から8になったときの話です。

プリンターが接続されていないときにメニューのプリントボタンを押したら、「プリンターが接続されていません」というエラーを出すというのがそれまでの考え方でした。

しかし、「ユーザーをエラーにガイドするな」というPrincipleがあります。それにともなって「プリンターがつながってないならプリントできないんだから、プリントメニューを出さないほうがいいじゃない?」という意見があり、この話題がHotになりました。

このとき私はCommunication Problemに陥りました。これは他のデバイスにも関わってしまう話でした。「ビデオの場合もエラーを出さない方がいいんじゃないのか」「ストレージがつながっていなければエラーを出さないほうがいいんじゃないか」…そんな話がいろいろ出てきました。

そして、あまり考えられないまま、私は「プリントできない状態ではプリントメニューを出さない」という決断をしました。

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今の時代、Appleが「ユーザーをエラーにガイドしない」と徹底しています。みなさんも「できないことは出さない」ことに慣れてきている時代だと思います。今でこそ馴染んでいますが、当時はまだ変革期でした。

Windows8が出てすぐに、「プリントメニューがないんだけど」という問い合わせがTOP3カスタマーサポートコールになり、いろんな方からのフィードバックが入りました。

私はCommunication Problemに陥っていたので、みんなが言ってるならそれでいってみようと考えて決めた結果、TOP3となるほどのHotなissueになりました。それは、QFEを出さなければいけないほどでした。

その問題自体は経験として学べたのでいいんです。自分が納得していないのに、いろんな方とコミュニケーションが足りていないのに、みんなが騒いでいるからそうしておこうと決めた機能だったこと。そのことを非常に後悔しました。

Principle自体は正しいものです。なので、どうやって直すかが問題でした。もしかすると時代を待たなきゃいけないのかもしれない。けれど、AdobeのPDF Writerをプリンターの中に入れることで、「プリンターが無いとプリンタメニューを出さない」としながら、プリンターメニューでエラーにならないというWorkaroundを出しました。つまり、PDF Writerを消された方はプリントメニューが出ない、という状況になっています。

「なるほど、Windowsはできないものを出さないんだな」とわかってもらうために、そういうQFEを出しました。

いろんな方がいろんなテンションや形でいろいろ言ってきますが、みなさんに聞くなと言いたいわけではありません。みなさんの意見を聞いて、自分が納得してはじめてRequirementとして書くのは、PMの人たちだけができることだと思います。

そのためには、Knowledgeがあり、説明でき、柔軟で、自信もあって、みんなが聞いてくれるAuthorityがあり、話を聞ける体制があることが大事です。であれば、話を受け入れられるし納得もいく。自由にコメントを言ってもらえる体制になると思います。

開発はつねに楽しい。だから今まで続けてこれた

最後にメッセージとしてお伝えしたいのは、そういったTalentができるのがPMの非常にすばらしいところだということです。PMが会社に、日本に、世界に、人類に貢献できる意味です。そういったTalentの積み重ね、プロフェッショナル・スペシャリストを育てることではじめてPMの存在価値が出ると私は思っています。

先程、95%はdisgusting(最悪)と言いましたが、残り5%はこれです。

Developing is Always Fun.

開発でものをつくりだせる。後に何かを残せる。これは私にとってすごく幸せなことです。

「これすごいね」「よく使っているよ」「これ使いやすいよ」と言われること。そういった5%の感動が、私に18年間もこの生活を続けさせています。

「Developing is Always Fun.」

結果を残せていることが私の誇りで、今までのキャリアは楽しかったなと思っています。

以上私からのプレゼンでした。ご清聴ありがとうございました。

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