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東京大学で教鞭を執りながらスタートアップの支援活動を行う馬田氏。前職の日本マイクロソフト株式会社でプロダクトマネージャー(以下 PM )を務めた経験から、日本国内にPMを普及させるために、ブログによる情報発信を始め、さまざまな活動をされています。

前回の記事では、馬田氏のインタビューより、主にジュニア PM をシニアに育成するにはどうすればいいかを中心にお届けしました。今回は当事者の目線にて、自身の PM としての能力をいかに伸ばしていくかについての内容をお送りいたします。

東京大学産学協創推進本部 
東京大学本郷テックガレージ・ディレクター
馬田隆明
1984年生まれ。University of Toronto卒業後、日本マイクロソフト株式会社にてVisual Studioのプロダクトマネージャ、テクニカルエバンジェリストとして数多くのスタートアップを対象に、技術面とビジネス面での支援を行う。現在は東京大学にて学生や研究者のスタートアップ支援活動に従事。

PMとして力を伸ばす「3つの P 」

―前編では主にジュニア PM の育成と評価についてお話を伺いました。後編では当事者として、自身の PM としての能力を伸ばすにはどうしたらよいかについてお伺いさせていただきたいです。

馬田: そうですね、まず PM にはリソースを取ってくる力が必要になるということは言っておきたいですね。とにかく足りないものが多いのですが、足りない中で自分でなんとかやっていくという視点だけではなく、まわりの支援を得る、上司を説得して手伝ってもらう、予算の配分を増やしてもらう、といったように、リソースを取ってくるケイパビリティ(=能力、素質、強み)は磨いておいた方が、いろんな場面で役立つと思います。

そして、PM として成長するにあたって、私は「3つの P 」が必要だと考えています。それは「Perspective」「Process」「Principle」の3つです。

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Perspective

馬田: まず「Perspective(視点)」についてですが、日本の PM は世界のプロダクトのことをもっと知ってほしいと個人的に思っています。国内の、それも競合のプロダクトについては詳細に知っている人は多いようですが、幅広く海外の情報まで知っているかというとそうではないという話を聞きます。

研究するときには論文をサーベイするのと同様に、プロダクトもちゃんとサーベイしたほうがいいよと学生には話していますし、それは社会人のみなさんにも言えることなんじゃないでしょうか。

―数としてどれくらい見ておくべきでしょうか。

馬田: SF 好きは1,000冊の本を読んでからでないと語る資格がないと言うくらいなので、やはり1,000くらいは見ておかないといけないでしょうか。1,000 というと多いような気もしますが、毎日10個新しいプロダクトを触れば 100 日で達成するので、Product Hunt や TechCrunch を毎日見て、ちょっとずつ触ればすぐです。あとはやるかやらないか、自分でサーベイを習慣化できるかの問題だと思います。

―1,000!それはやはり、イノベーションは掛け合わせから生まれるものだからなのでしょうか。

馬田: そうですね、イノベーションは新結合、とも言われているので。プロダクトをひとつの要素として捉えたり、プロダクトの機能を要素分解して把握したりして、いろんな要素を知っておくことは大事だと思います。たとえば顧客の課題も結合のための一つの要素です。

こうした要素をリストとして溜めておき、解決策になりそうな最新の技術要素も知っていく。顧客の課題と解決策のコンテキストが合った瞬間に「これとこれって繋がるんじゃないか?」と閃ける、そういったことが大事なんじゃないかと思います。

とある研究室の話ですが、研究室の入り口に、今の社会の課題や細かい個人のニーズなどの課題のリストと、最近出てきたテクノロジーや解決策のリストを貼ってあるそうです。学生たちがその前で話せるようにして、新しい新結合のイノベーションを起こせるようにしていると聞きます。企業でもそういう取り組みがあってもいいかもしれませんね。

―たしかに、それはいいですね。個人でやるなら、どうやって情報を集めたらよいでしょうか。

馬田: PM としての情報という意味であれば、海外で開催されているカンファレンス「Mind The Product」の資料に目を通すとか、 私が記事にまとめている「海外のフォローしておくといいPM」のツイートや記事に触れるといったことを普段からやっておくと、自然と引き出しは増えていくと思います。

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Process

―では2つめのPである「Process」について教えてください。

馬田: イノベーションのジレンマで有名なクリステンセンによれば、組織の能力は「資源 (Resource)」「プロセス (Process)」「価値基準 (Value)」の3つの要素に分かれるそうです。

多くの人は人材やお金といった組織の資源に目を向けがちですが、実はプロセスや価値基準も大事という指摘です。Resource にあたる人材やお金は比較的簡単に外部から持ってこれますが、Process や Value は着実に鍛えていくしかない。だからプロダクトを作る Process やプロダクトを改善していく Process を鍛えるのは大事だ、という認識です。それにそうした着実に育てていくしかないものって、もしちゃんと作れたら、他社には簡単に模倣できない競争優位性になるじゃないですか。

また PM 個人の目線で Process を見てみると、これは元 Google で今はナイアンテックの河合さんが仰っていたことですが、一般的なマネージャーと同じく PM は、効率化したり、誰でもできるようにしていくことで、自分の仕事をどんどん不要にしていき、ひたすら新しいことにチャレンジしていくことが重要だと思っています。そうするためには、Process をちゃんと考えていかないといけない。

加えて、外部から良い Process を自分たちのところに導入するというのも役目としてあるかもしれません。ただ簡単に模倣できるものではないし、外部の Process をそのまま自社に適用できるわけではないことも多いです。それぞれの Process がカバーする範囲も異なるため、どれか一つのプロセスが自社の銀の弾丸になるというわけではありません。

最近、角さんが翻訳された『組み合わせで理解しよう「デザイン思考、リーン、アジャイル」』という記事があります。たとえばこの3つはそれぞれ役割が違うので、それを確認した上でどの Process をどう使うのかをしっかり考えた方がいいと思っています。

様々な Process を理解した上で自社に合う Process を採用し、自社に適応させていく。そうしたバランス感覚が必要なのかと。

・ボトルネックの見極めと、見つけるコツ

―Processをつくるときに大事にするべきことは?

馬田: 今どこがボトルネックになっているのかを見極めることですね。これは著名な起業家でありVCであるベン・ホロウィッツが「HARD THINGS」で語っていたことですが、組織デザインって全部「悪い」んですね。ただその組織デザインは、ある部分のコミュニケーションを犠牲にすることによって、特定のボトルネックや問題を解決している。コミュニケーションのどこにボトルネックがあるのかを調べて、それを解消するために組織デザインが行われると。

同じように、どんな Process も悪いんだと、トレードオフが発生するんだと考えたほうがいいのではないかと思います。多くのプロダクトもトレードオフを考えながら、優先する機能を決めていくじゃないですか。UX を優先すればとある機能が盛り込めないとか、この機能を優先すればあの機能は期日までには実装できないから今回は落そうとか。プロダクトと同じように、今自分たちのプロダクトチームにここが一番足りないからこの Process を導入するんだけれど、当然副作用も起こるんだ、と考えていけばいいのではないでしょうか。

―ボトルネックを見極めるというお話について、PM の見るべき範囲はどこまでかという話もあると思います。馬田さんはプロダクトに関連するセールスやカスタマーサポートといった領域もプロダクトの一部として見てくべきと考えていらっしゃいますか?

馬田: 組織によっては、マーケティング部門にプロダクトマネージャーがいたり、エンジニアリング部門にプロダクトマネージャーがいたり、二つの部門にいたりと分かれていることもあると思います。そのため、PM がどこまでをプロダクトとして捉えるかは、柔軟でいいんじゃないかと思います。最近翻訳された「スタートアップで働くということ」という本があるのですが、第1章がまるごと PM に関しての内容なので、このあたりについて参考になると思います。

―ボトルネックを見つけるためには俯瞰した視点が必要だと思います。コツみたいなものはあるんでしょうか。

馬田: やはり引き出しの多さが重要でしょうね。「スタートアップで働くということ」でも PM にとってのリベラルアーツの重要性が語られています。仮説が立てられるかどうかも、自分の中に仮説のデータベースがあるかという部分が結構大きいと思います。ある意味ではパターン認識だと思うので、経験が増えるほど良くも悪くも仮説を立てやすくなってくるでしょう。

また、先ほど組織デザインの話をプロセスデザインの話に転用しましたが、別の領域の知識を今の自分の問題に適用してみるというのは意識的にやったほうがよいのかなと思っています。心理学では学習の転移という概念があって、教育全般の効果として特定の知識が別のところで活用されることが期待されていますが、これは実は結構起こりづらいそうです。だから問題を意識的にリフレーミングしながら、特定の領域での考え方をほかの領域でも適用していこうと考えると良いのかなと。

あとは宣言的知識としての引き出しがあれば、たとえばスタートアップだと、CEOがプロダクト作りから組織作りに移行するのは従業員が25人になったころに起こると言われていて、そのタイミングになったら気をつけないといけない、と気付けるなどでしょうね。

・引き出しを増やすための「質問力」

―引き出しを増やすためには、たくさんの事例などを本なり記事なりで読むのがいいでしょうか。

馬田: 記事系だけだと体験談に寄りがちなので、本も読んだ方がよいと思います。それに加えて人と話すのがいいですね。私の場合は、同じチーム以外の20人ぐらいの PM との1on1をひたすら続けたのがよかったと思っています。

―その1on1では、「あなたはどうやっているんですか」というお話を聞いたのですか?それとも「自分はこうしているがどう思いますか」と聞いたのですか?

馬田: 前者ですね。具体的な質問は忘れてしまいましたが。

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―上手い話の聞き方などはありますか。

馬田: ある程度質問を決めておいて、おもしろそうな答えが返ってきたときに深掘りしていくパターンが一番やりやすいかなとは思いますね。いわゆる半構造化インタビューです。あと教育現場にいて感じるのは、人って質問の仕方をあまり教わらないじゃないですか。でもちょっとだけ質問の方略を意識して、あとは訓練を重ねれば質問って結構うまくなるんです。

今、「たった一つを変えるだけ」という本を参考にして学生たちに質問の仕方を教えているんですが、基本的にアイデアの発想と同じで発散と収束を繰り返しながらやっていくのがいいのかなと思っています。

クリステンセンの著作の一つである「イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル」では、イノベーターに共通のスキルとして「関連づける力」「質問力」「観察力」「ネットワーク力」「実験力」という5つが挙げられています。この中にも「質問力」があります。特に製品イノベーターと呼ばれる人はそのスキルが高いそうです。その意味で質問する力は PM にも欲しいスキルで、この本は質問について学ぶヒントをくれると思います。

良い質問者になるためのやり方は、焦点化して発散して収束させて、そのあと一連のプロセスを振り返ってメタ認知すること。こういったことを繰り返していくと、「この質問は良かったな」とか「この質問は悪かったな」というのが見えてくるので、進めながら力を伸ばしていくとよいでしょう。こういう、方略を意識しながらメタ認知をするというのは、自己調整学習のやり方も参考になると思います。

・いろんな人をどれだけ巻き込めるかが重要

―Process づくりが上手い人と下手な人の違いってあるんでしょうか?

馬田: 人を巻き込む必要があるので、どんどん巻き込んでいけるかどうかは重要なんじゃないかと思います。大事なことは徐々に人を巻き込んでいくことなので、まずは積極的にやってみたらよいのではと思いますね。

―では、Process づくりをやってみた際、振り返りも重要になるかと思いますが、どう振り返るのがいいのでしょうか?

馬田: そもそも仮説がないと振り返りも何もないので、まずは最初に SMART (Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-Bound) なゴールと仮説を立て、振り返りはその仮説をベースにやることですね。やり方は KPT などでもよいのではないでしょうか。

また頻度は、最初は頻繁にやっておいたほうがいいんじゃないかと思います。習慣化することにも近しいと思うので、チャールズ・デュヒッグの「習慣の力 The Power of Habit」などを参照するのもよさそうです。そういったリズムをつくるのは、少しプロジェクトマネージャーのスキルに寄っているかもしれませんが、良いプロダクトを作っていくという意味で PM の役割ではあると思います。

あと US では、スタートアップが数億円の調達を行った際に外部のアドバイザーを雇って入れたりするんですね。そういった、足りないところにコンサルタントを雇って何とかするというやり方は、日本でもありなんじゃないかと思うところはあります。

半年自分たちだけで試行錯誤するより、お金を使ってでも外部の知見を入れて3か月で何とかしたほうがよい場合って結構あるんじゃないかなと。時間は最大の資源なので。

Principle

―3つめの「Principle」についてもお願いします。

馬田: ちゃんと自分で原則を持とうね、という話です。世界最大のヘッジファンドとも言われている Bridgewater Associates の創業者兼 CEO であるレイ・ダリオの「プリンシパルズ」という本があって、ちょっとそこに私の意識も引っ張られすぎているかもしれませんが、しっかりと原理原則を定めておく有効性はプロダクトレベルにもあると思ってます。

そもそも課題というのは現状と理想のギャップです。課題を把握するために現状を把握したいから、分析ツールを入れたりダッシュボードを作るのも有効ですが、実は問題なのは、理想がないと課題が設定できないという点です。

原則やプロダクトのミッションって、ある意味「あるべき姿」や到達すべき理想じゃないですか。多くの学生や社会人の方々を見てて思うのは、普通の人には理想を描くのは意外と難しいんです。私も正直苦手でしたし、今でもできているか分かりません。訓練されていないし、求められることも少ないから当然だとも思うのですが、でも理想を持たないと方向性も示せないし、今チームが取り組むべき課題も分かりません。これをはっきりさせてあげるのがPMの役目だと思います。

また単なる理想だけじゃ動きづらいので、少しブレイクダウンする必要があります。 Pixar や Twitter の CFO を務めた Ali が「Mission to Metrics」という記事を書いていて、私も記事を書いて紹介しています。PMの重要な役割の一つとして、会社やプロダクトのミッションをどうKPIに落とし込んでいくかということがあると思います。ですが、ビジョンなりミッションなりを自分の中で持っていないとメトリクスも決められません。そうした意味でもプリンシプルを定めるのはとても大事になってくるのかなと。

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―良いプリンシプルと悪いプリンシプルは、どう違うのでしょうか。

馬田: 最終的に頭に残らないと意味が無いですので、わかりやすさは大事です。Chrome や Chromium のPrincpleは 4S で「スピード」「セキュリティ」「安定性」「シンプルさ」となってます。あとはPRD(プロダクト要求事項文書)をきちんと書けている人はやっぱりすごいなと Microsoft 時代に思いました。インパクトチェーンでいうと、こういう原則に従ってプロダクトを作ると、素晴らしいプロダクトというアウトプットが出てきて、目指すべきアウトカムとインパクトが出てくる、と明快につながっています。

そして、初期のプロダクトのミッションもそれ自体がひとつの仮説だと思いますが、初期はそのミッションを決める過程で「チームを巻き込む」ことも大切じゃないかと思っています。それはチームメンバーと意思疎通を深めていく上で非常に効果的だからです。

・ボトムアップでミッションをつくる問題点

―ミッションをつくる際に気をつけることは?

馬田: 「ボトムアップ過ぎない」ということでしょうかね。私も何度かスタートアップのミッション決めの取り組みに関わらせていただいて経験しましたが、普通に働いていると会社やプロダクトのミッションってあまり深く考えないじゃないですか。仕方がない部分もあるのですが、そういう訓練をされていない人たちに短期間で何かを決めさせようとしてしまうと、つい安易に「良さそうに見える案」に飛びついてしまう傾向にあるように思うんです。

そしてこれもナイアンテックの河合さんがプロダクトマネージャーカンファレンスの第1回でお話されていたことですが、CEOなりPMなり何かしらの思いを持っている人が「こういう方向に行きたい」というビジョンを持ちつつ、最終的には「みんなで決めたよね」となるように持っていかないといけないんだろうなと思います。

・動詞で考える

―他にもトライしてみるといい手法はあるでしょうか。

馬田: そうですね、いま私が学生に教えているのは「Crazy 8s」と「Note and Vote」です。Crazy 8sの前にマインドマップもやっておいた方がいいと思います。ちょっとした準備運動で効果は全然違うなという印象です。

あと、大事なのは「ユーザーの動詞を考える」ということです。みなさんついキーワードというか、名詞を中心に考えがちじゃないですか。はやりの技術とかキーワードとか。でも顧客は何かを「する」ためにプロダクトを「雇う」わけです。ジョブ理論のジョブとも通じるところですが、ユーザーの行動や動詞を考えるために、カスタマージャーニーマップなどの手法を取り入れるよいのではと考えて行っています。

またアイデアをたくさん出すためには、しゃべりが苦手な人でも出せるようにブレインストーミングではなく「ブレインライティング」をお勧めしたりしていますね。そうした文脈でも Note and Vote は便利です。

―動詞ですか、いいですね。

馬田: 顧客理解のためにデザイン思考の話も取り入れています。ちょっと簡略化していますが、「理解」「探索」「検証」という三つのステップがあり、このプロセスをぐるぐる回してより良いものをつくっていきますと。

さらにそれぞれ例えば、「理解」にはサーベイやユーザーインタビュー、カスタマージャニー、「探索」にはルーブリックやCrazy8、Note and Vote、「検証」には MVP やロールプレイングなどのプラクティスがあるよと教えています。いち授業105分しかないのでなかなか時間はとれませんが、少し知っておくだけでも効果的だとは感じています。

このあたりは先に挙げた角さんらが昨年末に出版した、東工大でのデザイン思考の授業をまとめた「エンジニアのためのデザイン思考入門」がすごく参考になるのでお勧めです。

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海外と日本の PM の違い

―最後に海外と国内の違いについて聞きたいのですが、「日本の PM にはまだここが足りない」といったところはあるでしょうか。

馬田: そうですね、日本にもだいぶ根付いてきたなと感じていますが、違うのはコミュニティでしょうか。これは社内でもそうですし、社外でもそうですね。でもコミュニティで議論することで、情報が共有されますし、発表者も自分のやってきたことが言語化され、メタ化されて振り返りにつながります。

―議論し合うようなコミュニティが必要だということでしょうか。

馬田: あればいいんじゃないかと思いますね。それは別にコミュニティやアソシエーションみたいな、大それたものでなくてもよいと思います。例えば3〜4人でゆるく毎月集まってなど、そういうレベルでも全然いいと思うんですよ。むしろ小さいコミュニティのほうが全員がしゃべる機会が生まれやすいので、大きなコミュニティに属するよりも、自分自身の経験を言語化しやすいんじゃないでしょうか。

今は日本でもそうしたコミュニティができつつあるという認識ですし、みなさん頑張ってやってらっしゃって、機運の高まりを感じているので、私も貢献できたらと思っています。

それと、「なぜ3人いると噂が広まるのか」という社会的ネットワーク分析の本でも指摘されている通り、人間関係を維持していくうえでは3人のトライアングルのネットワークをどれだけつくれるかが重要なんじゃないかなと。今はコミュニティというとどうしても数十人いるイメージだと思うんですが、もう一段階小さいコミュニティがどんどんできてくると、より深い情報交換ができるんじゃないかなって気はしますね。

あとは Who knows what というか、PM のコミュニティレベルでトランザクティブメモリ(誰が何を知っているかを知っていること)ができてきて、「このことならあの人に聞こう」みたいな可視化ができ始めると良いかもしれませんね。そのためにも PM ひとりひとりの情報発信の機会が増えていくといいなと思っています。

プロダクト愛の強さが、日本で頑張る PM の強み

― PM としての能力値が、日本はまだまだ低いなという感覚はありますか?

馬田: それでいうと、海外にはバックグラウンドがしっかりした PM が多いですね。学生時代に CS(コンピュータサイエンス)を専攻し、MBA を卒業して、新卒で PM になるといった優秀な人が多いので。そのあとのキャリアも、PM はある意味スター職なので、PM から幹部職へといったステップがわりと明確なところも大きいです。

―逆に日本ならではの「こういうところはいいな」という点はありますか。

馬田:プロダクト愛の強い PM が多いのは、すごくいいんじゃないかと思っています。海外にももちろんプロダクトが大好きという人はいますが、わりとキャリアのワンステップだと考えている PM が多い気がします。

それに比べると日本の PM は自分のプロダクトへの愛が深いように思います。もちろんそれには良い面と悪い面があるのですが、きっとそうした思いは、最終的には良い方向に働いてくれると信じています。

―すごく素敵なことですね。日本で頑張っている PM の方に、ぜひ読んでもらいたいです。本日はありがとうございました!

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